前回の記事では、主に従業員側から訴訟(未払賃金請求)を起こす時の難しさと「事前準備の大切さ」について少し触れましたが、このことは勿論会社側からも大切です。

 

会社側からの相談で今のところ最もメジャーな相談は、「辞めさせたい従業員が居るが、どうすればいいか」というものです。(これも、「なんとなくそういうことが言われてる気がする…」というレベルの話なので、検証したわけはありませんが笑)

実際の事件でありそうなパターンとしては、

「採用してみて、最初は特に問題ないかなぁと思い、仕事のミスで口頭注意を繰り返してきたけど、なんらかのトラブル(人間関係的なものや、交通事故なんかもあるでしょう。)になって、解雇已む無しという状況になった。」

という感じでしょうか。このトラブルが仕事上の重大なミスとか違法行為であれば解雇の理由にもしやすいですが、人間関係とか交通事故とかその辺りだと「仕事はちゃんとやってるわけで…」となって、解雇の理由として十分なものではないことが多くなります。

(そういえば親戚の公務員が「飲酒運転一発で信用失墜行為として退職やむなしになる」みたいなことを言ってたような気がしますが、本当なんでしょうかね。空気の問題じゃないのかな…。)

 

ご案内の通り、現在の日本の労働法では、いわゆる解雇権濫用法理というのが存在しており、要するに「やむを得ない事由がない限り解雇はできない」という状況になっています。

また、会社が従業員を解雇する場合に普通解雇(整理解雇)と懲戒解雇という形があるのですが、従業員側に否がないことを前提とする普通解雇の場合には解雇が不当だとされる可能性が高いために、会社側としては、「今までの細かい仕事のミスや、色んな怪しい行動を懲戒事由だと言えないか?」というように、過去の粗探しのようなことをしてなんとか適法に解雇する道を探すことになるのでしょう。

昨今不景気だとか色々言われているなかで、1人分の給与を払い続けるというのはそれだけで会社にとって大きな負担です。最後まで雇用を守ろうとすると設備投資も出来ないし…というジレンマに陥ることも多いでしょうから、会社も会社で切実です。

 

話がそれてしまいましたが、じゃあ直ぐに解雇しよう!といっても、やっぱりそこはリスクがあります。

現状、弁護士業界では特に債務整理・労働あたりで「着手金無料、完全成果報酬」的に弁護士報酬を設定する事務所もありますから、労働者としてはノーリスクで会社に訴訟を仕掛けることができる可能性があります。会社としては、裁判を起こされたら弁護士費用もかかるし、もし解雇が無効だとなれば、遡って給与を払わなければならない。なので、唐突に漫然と解雇を通告することもできない。

ここでもやはり、「事前準備ができていればなぁ」と、後で振り返ることになるわけです。

 

多くの就業規則では、戒告(口頭注意)→減給→降格→懲戒免職など、段階的な処分が定められているはずです。

先の例で言えば、【仕事のミスで口頭注意を繰り返してきたけど…】という部分ですが、口頭注意からいきなり懲戒免職となると、それはそれだけで不当な感じがしないでしょうか。やはり、解雇に至るまでの期間において、社員とのやりとりを①具体的に②客観的に③証拠化しながら積み重ねていくのがベターだろう…というのが私の考えです。

例えば、

・何らかの迷惑行為があるのであれば、客観的に実行可能な業務命令を出しておく(タバコ休憩の際はタイムカードをつけさせるとか、職場内の指定のエリアには入室しないとかでしょうか。)
・いわゆるローパフォーマーについて、やるべき仕事を具体的に細分化して、細かい業務命令を出す(過度な要求になってはいけないのは当然ですが、「1日のうち3時間はテレアポの時間に充てて50件架電する」という命令を出しておく。)
・上記の様な業務命令を、書面で出す。
・違反した際の処分も”口頭”注意ではなくて「戒告処分」として形に残しておく(必ず理由をつける)
・解雇の前に、減給処分や降格処分のような中間的な段階を踏む。

というような方法があり得えます。客観的にチェック可能な業務命令を書面で行い、違反に対する処分についても客観的かつ具体的な理由を述べて書面で行い…というようなイメージです。

ジェネレーションギャップや文化の差もありますので、業務命令を具体的に行うというスタイルは今後益々必要になってくるはずです。会社としての労務トラブルに対する予防という意味もありますが、労働者側としても、自分のパフォーマンスを改善するための指針や、フィードバックという面で、有用性があるはずです。

ネットなんかでよく見る「根性論」vs「意味不明に怒られたムカつく」みたいなやりとりで疲弊すると勿体無いですし、感情的に怒るのではなく、しっかり業務命令として線引きをしながら進めていければ良いんじゃないかと思います。

 

以上、私見を交えてダラダラと、企業側の事前準備について書いてみました。他にも、そもそも就業規則が作りこまれていない会社とか、タイムカード回りのシステムがきっちりしていない会社とか、より手前の事前準備が必要な所もあるかもしれません。

顧問弁護士をつけてる会社は、弁護士をお守りみたいに思わずに、労務管理のシステム改善のためにちょこちょこ使っていかれると良いんではないでしょうか。